“20世紀モダンの音楽を通して紡ぐ未来のノスタルジー。前衛たちが未来に向かって投げかけた作品、作曲家たちが想像した「未来」は、私たちにとっての「過去」であり、また「現在」でもある。同様に私たちの現在は未来のノスタルジーとなる”
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19世紀末、パリにおいて4度に渡って開催された万国博覧会において浮世絵を中心とした日本美術が初めて出展され 「ジャポニズム」は熱狂を持って迎えられ、絶大な影響を与えます。 それは一時の流行に終わらず、印象主義を経て モダニズムへと変革する芸術の流れに決定的な作用を及ぼし、20世紀以降の芸術運動の発端ともなりました。 «L’art japonais est un « art nouveau » qui aura un large impact sur la créativité européenne » Samuel Bing 「日本の芸術は「アール・ヌーヴォー」であり、ヨーロッパの創造世界に多大な影響を与えるだろう」 サミュエル・ビング 美術だけではなく、音楽においても、19世紀末から20世紀初頭にかけて、多くの作曲家たちがジャポニズムに影響をされました。 1875年に生まれたラヴェルは、パリ万博の熱狂の中、多感な青年時代を過ごし、1901年、パリ音楽院時代の総括として「水の戯れ」を作曲します。 「水の戯れ」に先立つピアノ曲は「亡き王女のためのパヴァーヌ」、「古風なメヌエット」等、古典的要素に形容されたものでしたが、 「水の戯れ」」において、ラヴェルはペンタトニック(5音階)和声による新たな境地を開きます。 またドビュッシーは、1903年に「版画」、また続いて「映像」を発表し、やはりペンタトニックによる東洋的世界を表現し、 その後の印象派音楽のピアノ書法を確立します。 東洋的音形は、19世紀ロマン派とは全く異なる、新たな色彩パレットを生み出し その潮流はその後の近現代音楽世界の幕開けとなり、東欧においても、その民族的特色を生かした斬新な音楽手法が生まれました。  ジャポニズムに影響されたアール・ヌーヴォーの中、その時代の前衛たちは訪れたことのない東洋を夢想し、 未来を想像しながら作品を投げかけました。彼らの想像した「未来」において、音楽を創造している私たちの「現代」は、 いずれ、未来の「過去」となります。今日、この現代社会に生きる私たちは、過去の遺産によって育まれた内面性をどのように音楽に反映し、 演奏し、共有し、また私たちの想像する未来へとヴィジョンを投げかけるのでしょうか。  
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